| きらくえんでは福祉職員に求められる5つの条件として次のようなことを掲げています。 1.人権感覚 福祉職は人権を守る仕事であり、人権の担い手です。人権感覚に優れていることが重要な第1の条件です。 2.科学性・社会性 次には、科学的な歴史認識や社会認識をきちんと持っていることです。高齢者の生きてきた時代を知り、高齢者を取り巻く社会のありようや制度・政策を偏らないきちんとした科学的な学習により理解をしておかないと仕事の意味をつかめないのではないでしょうか。 |
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そしてヒューマンで優しい職員。相手の身になって考え、共感できる資質をもっていることが大事です。
4.ソーシャル・アクション
ソーシャル・アクションができる人。医療、福祉、教育などは人が人に関わる仕事であり、これらの分野は全国民の生活に深く関わっている分野です。ですから、そこで起きている矛盾は、その分野の現場に身を置く職員が明らかにしないと一般の国民にはなかなか分かりません。全国民的に重要であるからこそ、そこで起こっていることをきちんと伝えていく責務があると思います。読んだり書いたり話したりすることによって多くの人に知らせていく。そして矛盾を解決し、より良い方向へ前進するためにまず身近な人たちと連帯していく。そのようなソーシャル・アクションができることも、私は専門性の1つだと思っています。
5.チームワーク
そしてチーム労働の中で成長できる人になってほしいと思います。自分ひとりの力というのは、どんなに優れた人でも限界があります。やはりチームのみんなで考える。人の幸せを作りだしていくということは生半可にはできません。チーム労働が絶対に必要です。また、1人でも良くない職員が交じっていると、その職員に介護を受ける利用者はとても不幸です。良いチームをつくりあげ、キープすることの重要性を常に意識してほしいと思います。キーワードとしましては、人権感覚と総合的な人間力を持っていることに集約されると思います。
専門性には理論的な専門性と実践的専門性の2つがあります。理論的専門性というのは、何かを突き詰めて研究していく専門分化が特徴ですが、我々のような実践的専門性が必要とされる分野は総合化が特色なのです。1人の人間が多くの人たちに対応していくということになりますから、非常に総合的な力を必要とします。高齢者は1人ひとり全く違うのです。自分自身の人生を豊かにすること、人と人との関わりに熟練していくことによって、総合的な力を培って欲しいと思います。
では総合的な力を培うためにはどうすれば良いのでしょうか。私はまず豊かな自然に触れてほしいと思っています。自然がどんなにすばらしいものか、自然は時としてはあの大震災のように牙をむくこともありますが、それも含めて、自然の偉大さと素晴らしさ、そして畏怖の念を自分の感性で捉え分かっている人というのは謙虚で優しくならざるをえません。私は昔、会津の裏磐梯に旅行したことがあります。周りがすべて深い雪一色の中で高齢のおじいさんがたった1人ぽつんとワカサギ釣りをしていました。凍った湖に穴を開けて糸を垂れて動かないでいる姿を見まして、この人はずっとここで生きてきたんだな、人は世界中の想像もつかないところで、みな一生懸命生きているんだなと、なぜか涙が出たことがあります。ノルウェーのフィヨルドの崖の上にポツンと一軒の家があるのを見た時も似た感慨をもちました。また高山植物が、高い3000メートル級の山の岩場で可憐に風に揺れている、そのような姿を見たときにも胸がいっぱいになりました。自分の経験からもそのように自然と人間を知ることはとても大事なことではないかと思っています。
すばらしい芸術を知ることも大事だと思います。一流の文学や音楽や絵画、そういうものにできるだけ触れる機会をもつことです。そうすると、人間とは何とすばらしくすごい存在なのかということに感嘆せざるを得ません。一冊の名作は作家が命をけずって書いたものです。自分とは違う人生が凝縮されていますから、自分の人生以外の人生を感じることができる。すばらしい体験だと思います。一流の音楽、絵画、文学、そういう芸術に触れて、人間とは何と素晴らしいんだろうということを感じたときに、人間を信頼し、人間に確信を持てる、そして感性も豊かに育っていく、そんな気がしてなりません。
また、介護保険制度の導入で「措置から契約へ」と変わり、(準)市場競争下で事業を行っていく時代になりました。福祉職員も優れたケアの追求に加え、コスト意識や経営感覚をもつことが必要になっています。また、施設は閉鎖的に運営する時代から入居者も地域の一員として生活できるよう、地域の中で地域と共に運営する時代になりました。これからの福祉職員は地域と共に地域福祉を創造するキーパーソンの役割をになわねばならないでしょう。
それでは「文化」とはなにか。私は、人がこの世に生を受け、「いかに生きるか」を自身に問い、夢や理想を抱いて歩みだすことが、文化の原点であると思っています。そして、多くの人たちの生きる目的は、人々と愛や信頼を築きながら、自身の生きがいを求め実現していくことであると思います。日々の生活に楽しみや、やすらぎを望むのも重要な生きる目的であるはずです。
政治や経済、社会のありよう、学問や科学、そして芸術は、人々のそのような願いを実現するためにこそあるべきだと思います。そして、人々が本来の生きる目的を実現させるためのすべてを、私たちは「文化」と名づけているのではないでしょうか。とすれば、文化は生活の営みであり、生活の営みとは一人ひとりが、そのいのちを輝かせて生きることです。 高齢者は80余年の人生=生活の営みを、ひたすらに真摯に生きてきた方々です。私たちは、まず、その事実の重みを深く受けとめるところから「介護」を始めなければなりません。ましてや、高齢者に残された時間は少ない。一日一日の貴重さは若い人たちの比ではないのです。言い方を替えると人生の完成期を迎えている貴重な日々なのです。高齢になればなるほど「いのちをきらめかせる時」が重要なのです。
そして、いのちをきらめかせた日々のあとに迎える死はきっと豊かな死であろうと思います。人間の尊厳を踏みにじられる介護を受けたのちに訪れる死は無念の死ではないか。介護の文化の究極は豊かな死を実現することでもあると思うのです。
日本福祉文化学会会長の一番ヶ瀬康子氏は「福祉文化」の意を「福祉の文化化」と「文化の福祉化」と表現されています。その言葉をお借りすると、これからの介護のキーワードは「介護の文化化」ではないでしょうか。
ノーマライゼーションの生みの父、ニルス・エリック・バンク・ミケルセンは、ノーマライゼーションとは、ハンディキャップを持つ人をノーマルな人にすることではなく、ノーマルな生活条件を可能な限り提供すること、ノーマルな生活条件とは何か、それは自分自身がその状態に置かれたときに、どう感じ、何をしたいか、を真剣に考えれば、自ら導き出せるはず、と言っています。また、ノーマライゼーション育ての父と言われるスウェーデンのベンクト・ニーリェは以下の「8つの原理」を提唱しています。
●1日のノーマルなリズム
●1週間のノーマルなリズム
●1年のノーマルなリズム
●人生のノーマルな経験
●個人の尊厳と自己決定
●男女両性の世界での生活
●その社会でのノーマルな経済水準
●その地域でのノーマルな生活環境
さらに、1999年の国際高齢者年では、高齢者のための国連5原則である、尊厳・自己実現・ケア・社会参加・独立の実現のほかに、人道上の側面と開発上の側面が提起されました。人道上の側面は高齢者の尊厳を守ることですが、開発上の側面は高齢社会に対応する新しい政治・経済・社会の開発を、という提起です。日本はこれからの超高齢社会をどう開発していこうとしているのでしょうか。
繰り返しになりますが、福祉は平和でないと築けません。福祉の対極にあるのは戦争です。福祉に携わることは平和を希求することです。私は世界中でいまだ紛争や戦争が絶えないことを悲しく思っています。21世紀は若い皆さんの世紀です。皆さんが平和と人権の世紀をめざしてがんばって下さることを心から願っています。




