「自然な看取り」を学びたくて、<br />
病院看護師から、福祉の看護師へ。<br />

vol.4

「自然な看取り」を学びたくて、
病院看護師から、福祉の看護師へ。

KOBE 須磨きらくえん 看護師

2019年4月入職

井上 あい(イノウエ アイ)

看護大学 卒業(前職:病院勤務2年)

「ここは生活の場」という考え方に、共感しました。

100名が入居するKOBE 須磨きらくえんに、7名の看護師が従事しています。

特養ホームの看護師として、毎日の服薬セットの確認や傷や褥瘡(とこずれ)の処置などを行うほか、体調の変化が感じられるご利用者のバイタルサインを確認し、必要に応じて医師に連絡をとっています。
大学卒業後は2年間、病院看護師としてICUを経験しました。病と戦い続ける患者さんの姿は非常に勉強になりましたが、一方で「自然な看取り」について知りたいという思いが芽生え、学生時代に実習に来た、きらくえんに入職しました。病院のように、医師が常時いない特養施設での看護に最初は戸惑いもありましたが、今は、ご利用者との関わりが長くなるにつれ、最期まで看取りたいという気持ちのほうが大きくなっています。

ここでは看護師も私服、処置用カートも使いません。

ご利用者にとって、ここは「生活の場」。看護師も私服で、処置用カートも使いません。きらくえんのご利用者はお酒を飲んでいいし、タバコもOK。バーがあるのも最初はびっくりしましたが、いいなぁと思います。生活環境にもこだわっていて、その人らしい個室が自由に作られるなど、ハード面でも温かさや清潔感を感じられるのも、きらくえんらしいところです。
一方で、「生活の場」なので、医療的にできることも限られてきます。施設で看取った方がいいのか、病院での治療を薦めた方がいいのか、判断が難しい場面もありますが、いちばん大切にしているのは、ご利用者本人が苦痛なく人生を全うできるようにすること。冷静に状況を見て、先生や看護師の間で話しあいますが、その際も、ご利用者と接する時間が多い介護職員の意見やご家族の気持ちも聞きながら、最善と思われる方法を判断していきます。

人生の最期の瞬間まで、いろんな人が支え続けている。

できることが限られているから、綿密なコミュニケーションで補う。

きらくえんの看護師には、子育てなどを経たベテランの先輩がほとんど。いろんなことを教えていただきながら、私は近年の医療現場についてお伝えすることもあります。病院に勤務していた頃は、すべき業務をこなしていくのが好きなタイプだったので、先輩からも指摘されるくらい「淡々と」仕事をしていました。きらくえんでは、終の住処としてご利用者が生活しています。日々関わっていく中で、ご利用者、他の職員に家族のような愛情が湧き、ささやかな関わり合いも楽しく感じています。いろんな職種の人がいろんな側面から一人の人を支えていますので、それぞれの専門分野からお互いに情報を出し合うやりとりは、私自身の視点も広がるほか、一人ひとりへの尊敬にもつながっています。看護師の勤務は基本的に日勤だけなので、気をつけてほしいことや新しく始まった薬についてなどを夜勤帯の介護職員に申し送りして、1日の業務は終わり。病院より、医療に関する情報やできることが少ない分、「みんなで考えること」を徹底しています。

最期の瞬間まで、温かいケアを全うする。

「最期はきらくえんで」。一時は入院されたご利用者が、戻られるケースも少なくありません。私もきらくえんに入職してから、看取りの場面も経験しました。終末期医療の場では、患者さんの体に点滴跡や褥瘡ができやすいのですが、きらくえんは介護職員のケアが丁寧なので、褥瘡がほとんどない状態です。きれいに枯れていかれる様子には「ああ、人生をまっとうされたんだ」と、胸を打たれます。
また、その時が近いご利用者がいらしたら、きらくえんでは、かつてその方を担当し、別のフロアや部署に異動したスタッフも「ひとめ最後に」と様子を見に訪ねてきます。亡くなられたご利用者のお見送りの際も、勤務時間外のスタッフも駆けつけ、お別れの時までとても温かい雰囲気に包まれます。

医療看護の経験を生かせるのは、病院だけではない。

いま、福祉分野に関心がある看護師志望の学生さんも、一度は病院勤務を経験した方がいいと思います。私も、今のベースとなっている医学的な知識は、医療現場で学んだことが多く、介護職員からも「看護師としての意見を聞きたい」と言われる場面も少なくありません。服薬のこと、傷の対応、医師につなぐ判断や往診に来られる医師とのやりとりは、私たち看護師。経験の長短の区別なく、看護師としての責任は福祉の現場でも等しくあるので、「医療看護の経験を生かせるのは、病院だけではない」ことを覚えておいてほしいと思います。